1990年代生まれの漫画論。

大事なこと・好きなことを忘れないように。欲しいものを叫び続ける。

【感想・まとめ】血と灰の女王

血と灰の女王

Amazonに投稿したレビューをこちらでも記載します。

この作品は本当に好きで、自分のレビューが第一巻のAmazonレビューの第一番でした。それだけに、すごく思い入れがあります。

1巻だけでなく、他の巻でも一番初めにレビューをかけるようにしています。

 

1巻

2017年5月13日
バコ ハジメ先生の作品は前作ドリー・マーから注目していました。
週刊少年サンデーからWeb漫画裏サンデーに移行されたのですね。
紙面ではどうしても制約や打ち切りのリスクが発生するので、Webにてじっくりと腰をすえて連載してくれるのは個人的にうれしいです。

さて、本作は不思議な作品です。
一般市民の虐殺シーンや凄惨なアクションシーンばかりなのに、心に強く残るのは主人公たちの優しさに満ち溢れた言葉です。
グロシーンがメインの漫画だと思いきや、実はそれらは温かいシーンの魅力を引き出すスパイスだったというわけです。
絵面はグロいのに、仕上がりはすごくキレイ、という変なことになっています。

主人公は今どき珍しいぐらいまっすぐでキレイな心を持つただの高校生です。
デスゲーム漫画にありがちな、すかした感じやひねくれ者、やれやれ系、のような感じはなく、
またバトル漫画にありがちな、血統や才能に恵まれた主人公、ということもありません。
ただ一方でこの主人公は、人の内面をよく観察している、という物語上大きな意味を持つ特徴を持っています。1話から最新話まで、この人物像は決してぶれていません。
命をかけた戦いを目の前にした主人公がどれだけの人の優しさを見つけられるのか、というのがこの大きな作品の魅力となります。

とにかく作者の人間への素朴な愛に満ち溢れている漫画です。

絵は非常に丁寧です。描きたいものをしっかりと描ききることができるだけの画力がある作者だと思います。
作中たびたび挟まれる夜空の美しさには先生のセンスの良さが感じられます。

残念な点をひとつあげるとすれば、それは、おそらくこの作品にとって重要な話となる12話が掲載されていないことです。
ここまで読まないとこの作品の魅力がなんなのか分からない人が多く出ると思います。
ただ幸いにも1巻の続きはWebやアプリでいつでも気軽にすべて読めるので、この漫画に少しでも魅力を感じた人は是非とも続きを読んでほしいと思います。

ちなみにヴァンパイア漫画ということですが、ヴァンパイア要素は今のところほとんどなく、どちらかというと怪人漫画っていう感じです。
 
2巻
2017年7月14日
形式: コミック
作者が語りたいであろうテーマが、ようやく明らかにされます。

ぶっちぎりで熱い正義漢が主人公をやっているマンガです。
1巻のレビューでも書きましたが、グロ表現にさえ抵抗がなければ超おすすめな王道マンガです。
(個人的にそこまでひどいグロだとは思いませんが……)

この巻の見どころのひとつは、「絶対に間違ってる真っ暗な部分はある。けど白は無い。灰色の部分がね、ずーーーーっとどこまでも広く広がってるの。その中を走り続ける。血で血を洗い、真っ赤になりがらね。」
というヒロイン・ドミノのセリフがあったその次の話で、
別人物が主人公のことを「灰色の中の真っ白い瞬間」を探してると評しているところです。
このドミノと主人公の人物像の対比がとても好きです。どちらも考え方がきれいすぎて非常に好感が持てます。
まさしく少年マンガ、王道マンガらしい象徴的なワンシーンです。
※またこのシーンによって、このマンガのタイトル『血と灰の女王』の「血」と「灰」の意味が回収されました。

主人公は、ある日突然ヴァンパイアになったということ以外はまったく普通の高校生で、こういうダークファンタジーにありがちなひねくれ者やヤレヤレ系主人公みたいな性格をしておらず、嫌みがない好青年です。
作中の強さ的にも、気持ちでは勝ってるという描写は多々あれど、全体的に見ればせいぜい中の上ぐらい。
最強主人公が無双するという話では決してありません。

このマンガは、倫理的に悩める正義漢の主人公が「血で血を洗い、真っ赤になりがら」人間の「真っ白い瞬間を」探す、純情な少年マンガです。
グロがあるため少し人を選びますが、1巻を買った人は是非とも2巻も買って、作者が長く連載できるよう応援しましょう!!!
この作品は無料のWeb漫画で連載されています。私たちが単行本を買わなければ、すぐに打ち切られてしまいます。
3巻
2017年11月15日
形式: コミック
京児兄さんが好きになれる3巻です。

初めて登場した時は胸糞の悪いサイコパス野郎でしたが、話が進むにつれて好感度が上がり主人公の頼れる兄貴になっていきます。

1巻と比べると、京児の残酷なサイコパスというキャラクター性はむしろ強まっています。ドン引きするほどのショッキングシーンも健在です。
それにもかかわらず、京二のことを好きにならざるを得ません。

非人間的で冷酷な面を見せながらその一方で人間的な温かさを併せ持つという一見矛盾したキャラクターですが、彼の行動にはまったく違和感がありません。
京児のすべての行動に筋が通っているように思え、また京児のあらゆるセリフはきっと彼の本心から出てきているのだと思えます。

また、ひとえに人間的な温かさといっても、それは主人公の善とは全く性質の違うものです。
その違いは是非とも実際に読んで確かめてほしいです。

それにしても、なんとも緻密に作りこまれたキャラクターたちです。
きっと作者は、本当にこのマンガのキャラクターたちを、そして人間そのものを愛しているのでしょう。
今後のスト―リーにも期待がもてます。

打ち切り勘違い騒動という恥の塊のような事件が小学館編集部で起きたようですが、そんな外圧に負けず、最後の最後まで彼らの活躍を描いて欲しいです。