1990年代生まれの漫画論。

大事なこと・好きなことを忘れないように。欲しいものを叫び続ける。

【マンガ論】SNSと漫画のキャラクターへの感情移入の関係性について。少年マンガ、特に恋愛マンガの危機。

SNSと漫画のキャラクターへの感情移入の関係性について。少年マンガの危機。

はじめに

ああ悲しいかな!!!

技術の発達によってわれわれはインターネットやSNSという便利なツールを手に入れたが、その一方で色々なものを失っている!! (ここでいうSNSとはTwitterやインスタといったメジャーなサイトに限らず、ネットに文章を書き込むあらゆる行為を指すことにする。)

 よくいわれるのはどこでも簡単に連絡が取れるようになったせいで、恋愛物語特有の「すれちがい」が演出できなくなってしまったということだ。もしも2人が本当に通じあいたいのだったら、今のご時世、Lineでメッセージを送ればいい!!!あの娘を探して夜の街にくりだすなんてロマンティックなことを我々はしなくなった!!(いやこれは元からしていない)。

 だが今回はそれとは別に、もう一つ違った弊害があることを語りたい!!!

  それは今回の記事のメインテーマでもあるが、SNSが身近になったことが原因で、まわりまわって読者が登場人物たちに感情移入することが少々困難になっているということだ!!

マンガとSNS

 皆さんは読んでるマンガの主人公がSNSやってる姿って見たことがあるだろうか???自分はあまりない。少年誌向けマンガ、特に恋愛マンガでは壊滅的にみない。(SNS恋愛マンガの『クロスアカウント』は打ち切られてしまった!!!)

 でもこれっておかしくないですか??!!SNS一切やってない子どもなんて今やほとんどいないですよ!!!!聞いた話によると一切SNSやってないのは変な子扱いされるケースまであるそうで。

 このマンガと現実のギャップは、どうしてだろう。ファンタジーものやギャグものでもない限り、マンガの主人公は基本的にリアル指向で設計されなければならない。読者の感情移入を呼び起こすためだ。特に恋愛マンガはそうだろう。だから、現実の子どもがSNSをやっているなら、マンガの主人公もSNSをやっているべきなのだ。しかし、そういった主人公はあまり見ない。

 なぜなのか少し考えてみた。そして、この考えにいたった。

  知り合い程度にしか知らない人間がSNSをやっている姿というのは、大なり小なりみな等しくキモいのだ!!!!!!!!

 なぜキモい?

 少し言い過ぎたかもしれないが、例をあげていこう。

 SNSで心情を吐露する行為や愚痴書き込みがあまりよろしくないのは、説明するまでもなく分かりやすいだろう。あまりあなたに興味がない人間にとっては勘弁願いたいと感じること間違えなしだ。

 だがそんな極端な話でなくても、文字に起こされた言葉というのは不思議なことに、些細な部分からでさえ書き手の人格がなんとなく透けてみえてくるものなのだ。口調・顔文字・絵文字・語尾の書き方から、なんとなくどんな性格の人なのかと、無意識に推測してしまうものなのだ。

 中途半端にしか性格を知らない人だと、文章から受け取るその人の印象と、元から抱いていたイメージの印象との間にギャップがあると、それがそのまま違和感につながる。そしてそのギャップがそのまま「なんとなくキモい」になりやすいのだ。そして、「中途半端にしか性格を知らない人」というのはまさに、マンガの主人公にたいする読者との関係と同じである。

 現実世界とSNS

 SNS疲れという言葉が流行ったように、我々新人類は未だ適切なやり方・距離感を模索している。我々がSNSをやっていて「キモいなぁ」って思った時、いったいどうするか。答えは、「なるべく無視する」であろう。

 そうだ!!!!我々には無視という選択肢があった!!!いやなものからは逃げればいい!!!友達の面倒臭い書き込みは見なかったことにすればいい!!!!これは生存における基本戦略だ!!!!!!我々はそうやってストレス社会を生きているのだ!!!!

 ところがどっこいっっっ!!!マンガを読む場合には「無視する」なんて選択肢、赦されてないのだ!!!!!

主人公の一挙一動すべてなにかしらの意味があるものとして設計されているのがマンガなのだ!!!読者もそのつもりでマンガを読んでいるはずである!!!!

 そういうわけで、意図されたものかどうかは不明であるが、キモいと思われないように、恋愛マンガの主人公がSNSに疎いというようにキャラ設計されているのは、理にかなっているといえる。

今のマンガにおけるSNS

 しかし現実の世界では、まったくSNSをやっていない中高生というのは、なにか特別な理由をつけないと変な子に映ってしまう。マンガのキャラクターが同じ理由で変に思われるということはつまり、読者がそのキャラクターに感情移入しづらくなるということである。SNSをやっていない理由や設定がなにか必要になる。そこで用意された近年よく見る主な理由を調べて、まとめてみた。

つまり、「貧乏」、「異世界」、「極端なぼっち」である。

分析

 もちろんキャラクターの性格設定というのはSNSなんかで決められているわけではなく、せいぜい一要素にしか過ぎない。それでも話をすすめるために分析をすすめたい。

 いま生き残っている少年誌の恋愛系のマンガのうち、『ぼくたちは勉強ができない』の主人公は、最近携帯を買ってメールを覚えた貧乏人だし、『ゆらぎ荘の幽奈さん』の主人公は住所不定でネットに繋がっているのかどうかも怪しい貧乏人だ。(かろうじて携帯持っていた気もしたけど忘れた)。『かぐや様は告らせたい』の男主人公も貧乏設定であり、格安携帯を最近手に入れたようなハイテクからは遠い人間という設定だった。『五等分の彼女』の主人公も極端な貧乏だった。こうしてみると貧乏人が多く、作者が意図したかどうかはわからないが、SNSをやってなくてもおかしくないキャラ設定になっている。『寄宿学校のジュリエット』はインターネットの普及率がそもそも謎な異世界物語だった。『星野、目をつぶって。』の主人公は極端なぼっち人間で、SNSどころか人との繋がりを持とうとしない人間だった。『クロスアカウント』という作品が少年ジャンプの作品はSNS恋愛がメインの話でしたが、すぐに打ち切られてしまった。

 こういうキャラクター設定自体は決して悪くないと思うが、読者が感情移入しやすいかどうかと言ったら、どれもこれも設定が極端すぎる。

(もう一度言いますが、もちろんこれらはあくまで結果だけを見て上滑りした分析で、主人公の性格はもっと別の理由で決められていると思います……。)

 キャラクターがSNSをやっていないことを違和感がなく説明する言い訳は、見つかっていないように思える。

 結論

 ようやく最初の話に戻りますが、現代生活にSNSが登場したことによって、読者が感情移入しづらい不幸な環境が生まれてしまいました。主人公がSNSを安易に使ったらなんとなくキモいと思われて感情移入を妨げる要因になるし、だが反対に全く使わないというのも、今どきの中高生からすると変な話。だからといってSNSを使わない理由を補強すれば補強するほど、今度はキャラクターの一般性が失われ、かえって感情移入しにくくなる。
 これが、SNSがマンガにもたらした第二の不幸だと私は考える。

 マンガのキャラクターに感情移入するということは、読者に感動を届ける上でもっとも大事なことなのに、その土壌自体が崩れ落ちているのだ。これはマンガの危機といっても過言ではない。

 どうすればいい??

 さて、解決策になにがありますでしょうか?考えてみました。

1つ目の解決策は、「人はSNSとリアル世界ではまったく違う生き物だ」というコンセンサスが社会通念上取られることだ。そうすれば、もはや人はSNSを使用する際に、書き手と書く内容のギャップになんとなくキモいと感じることはほぼなくなるだろう。ただ世代を超えて社会一般にまでそのようなコンセンサスが取れるとは思えないし、取れたとしても非常に時間がかかる。

 そこで2つ目は、そういうコンセンサスをマンガ業界だけでも取れないか、ということである。つまり出版社たちが結託して「マンガの世界の主人公たちのSNSの使い方はおおよそこういうものだ」という基準めいたものをつくれるようにすればよい、ということだ。マンガの世界は実はそういうコンセンサスで満ち溢れている。たとえば「男子高校生は部屋にエロ本を隠し持っていてもおかしくない」というような「常識」も、様々なマンガの主人公が実際にそのように行動して作られたものだ。本来ならば、たとえエロ本持っていているのが自分の友達であったとしても、「キモい」と思ってしまいかねないことなのだ。このエロ本におけるマンガ業界のコンセンサスと似たような事を「SNS」でもできないか、と考えたわけである。これなら1つ目とくらべていくらか現実的であろう。

おわりに

 ここまで色々言うのは、SNSという存在が読者の感情移入という問題に想像以上に影響を与えているのではないか、と危惧しているからである。

 そしてSNS世代のためのマンガがこの先作られなくなってしまうのではないかという恐ろしい可能性を感じているからである。

ただでさえ最近は昭和に流行った作品のリメイクが流行っている。

 それ自体は決して悪くはないが、私は、若い世代が誰にも相手にされなくなっているんじゃないかと思ってしまう。いや、経済力や人口というところをみるとそれは事実であろう。

 だから私はその流れに対抗するためにこのようなブログを立ち上げたし、このような記事を書いたのである。

 私はマンガ業界がこの障害を乗り越え、SNSとマンガがもっと親和性の高いものになることを、切実に祈っております。

 長くなりましたがここまでお読みいただきありがとうございました。